女性の薄毛対策のためにクリニックで処方される内服薬にはどのようなものがあるのでしょうか?また男性用の治療薬を服用してはダメなんでしょうか?この記事では女性に用いられる主な女性の脱毛症(FAGA)用治療薬、パントガール、スピロノラクトン、ミノキシジルについて、ハゲンワシがそれぞれの特徴を説明します。
女性は男性用内服薬を使用できない
まず女性の脱毛症(FAGA)には、基本的に男性用のAGA内服薬を使用してはいけません。男性用の薄毛治療には、フィナステリド・デュタステリド(商品名:プロペシア、ザガーロ)などの内服薬が用いられますが、これらの治療薬は女性が服用するだけでなく、触れることすら厳禁です。
特に妊娠中の女性が男性用の薄毛治療薬に触れると、成分が皮膚から体内に入ってしまい、お腹の中の男児の生殖器官の発育に悪影響が出ると言われています。そのため、男性用の薄毛治療薬は、女性には使用できないのです。
唯一、ミノキシジルの外用薬・内服薬は、フィナステリドやデュタステリドなどと異なり、血管を広げ、血流をよくする作用によって発毛を促進するため、女性でも使用できます。
女性の薄毛(FAGA)の治療は美容目的の治療とみなされ保険の適用にはなりません。男性の薄毛(AGA)も同じです。保険診療ではなく、健康保険証が適用されない自由診療となります。
治療薬1 パントガール
パントガールは、世界で初めて効果や安全性が認められた、女性用の薄毛治療薬です。
パントガールは女性の薄毛や抜け毛の改善を目的として作られた内服薬で、ケラチンやシスチンなどの髪や頭皮に大切な栄養素をたくさん配合しており、サプリメントに近いという特徴があります。サプリメントに近いため副作用が起こりにくく、継続しやすいというのがメリットです。
一部のサイトでは実際にサプリメントであるかのように紹介していますが、これは間違いです。また、逆に医師の処方が必要な医薬品、と紹介しているのも間違いです。パントガールは海外では薬局で購入できる医薬品です。日本国内ではまだ未承認の医薬品のため、医師の診察が推奨されている医薬品、というのが正しい表現です。
補足ですが、パントガールに似た薬として「ルグゼバイブ」というものもあります。ルグゼバイブは、パントガールの主成分と馬プラセンタが配合されているため、脱毛だけでなく、髪の質(ハリツヤ・弾力)の改善、美肌効果および疲労回復効果なども期待できます。薄毛の改善という意味ではパントガールもルグゼバイブもほぼ同じような効果が期待できると言っていいでしょう。
パントガールの効果
頭皮細胞や毛髪を健康に保つ
パントガールの主成分である、パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)には、頭皮の細胞や髪の毛を健康な状態に保つ効果が期待できます。また、パントテン酸カルシウムには、ビタミンCの働きを助ける作用もあるため、髪の毛を作るたんぱく質(ケラチン)の生成を促す効果も見込まれます。この働きにより、髪の毛の健康を保つことができるのです。
さらに、抗ストレス作用のある物質の生成を促進するため、ストレスによる薄毛症状の改善にも効果が期待できます。
ハリ・コシのある髪の毛を生成する
パントガールには、髪の毛の主成分であるケラチンが含まれています。ケラチンは、太い髪の毛を作る・美しい髪の毛を作るために重要な成分です。そのため、ハリやコシのある美しい髪の毛の生成をサポートします。
パントガールの副作用
パントガールは、ビタミンやたんぱく質を主成分とした薬のため、副作用の心配はほとんどありません。ただし、ごく稀にですが、頭痛・腹痛・めまい・下痢・動悸・胸やけなどが生じる可能性があります。これらの症状がみられた場合は、医師に相談するようにしましょう。
パントガールを服用できない人
・未成年
・妊娠中の女性
・スルホンアミド系の薬を服用されている方
上記に当てはまる方は、パントガールを服用できない可能性があるため、医師に相談するようにしてください。
治療薬2 スピロノラクトン
スピロノラクトンは、もともと高血圧の治療に用いられてきた古い薬であり、利尿効果という尿を増やす作用があります(尿がたくさん出れば血管内の水分量が減りますので、結果として血圧が下がるわけです)。スピロノラクトンは医師の診断のもと処方してもらう必要がある医薬品です。
なぜこれが女性の薄毛に対して処方されるかというと、スピロノラクトンの副次的な作用が女性の薄毛に効果があることが分かったからです。
スピロノラクトンには抗男性ホルモンという作用があり、男性ホルモンが抑制されることで、男性が服用した場合に、男性であるのに女性のような乳房となる女性化乳房や、男性の性欲が減退するといった症状がみられる場合があります。
女性にも微量ではありますが男性ホルモンが分泌されています。閉経などで女性ホルモンが低下し、男性ホルモン濃度が相対的に濃くなると、ヘアサイクルが乱れて抜け毛が起き、結果として薄毛になるということがあります。
スピロノラクトンの効果
ホルモンバランスを整える
スピロノラクトンを内服することで、男性ホルモンが抑制され、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが整うと、ヘアサイクルが正常化され、抜け毛の予防が期待できます。そのため、女性薄毛に対しては、抜け毛予防の目的でスピロノラクトンが処方されます。
ニキビの改善
スピロノラクトンは別の働きとして、アンドロゲンが結合する部位に競合的に結合するためその働きをブロックする作用があります。その作用を利用してニキビの原因となるアンドロゲンの働きを抑え、成人型の女性のニキビを改善します。その他にも多様なホルモン作用を持つと考えられていますが、その個々の作用がすべて解明されているわけではありません。
スピロノラクトンの副作用
もともと高血圧の治療に使用されている薬剤であり、長期間の使用経験がありますので大きな副作用はありません。しかし、通常は高血圧を生じるような高齢者に投与することが多い薬剤ですので以下の注意点は確認しておきましょう。
① 生理不順や不正出血が生じる
スピロノラクトンのホルモン作用により生理不順や不正出血が生じる場合があります。そのため、低用量ピルを併用して規則正しい生理周期に誘導することがすすめられています。
② のどの渇きなど、利尿効果による症状
利尿効果により尿量が増えるため、のどが渇いたり脱水になったりということが考えられますが、現実的には持病のない方にこれらの症状が生じることはほとんどありません。少し多めに水分をとるように習慣づけるようにしましょう。
③ ごくまれに電解質異常や急性腎不全の可能性
高齢の方や心臓や腎臓に持病のある方は、ごくまれに電解質異常や急性腎不全副作用を生じる可能性があります。電解質異常に伴い、不整脈、全身倦怠感、脱力等があらわれることがあります。
これらの症状がみられた場合は、医師に相談するようにしましょう。
広告治療薬3 ミノキシジル
ミノキシジルも、血管を拡張させる作用があるため、もともとは高血圧の治療に用いられていました。ミノキシジルを投与された患者に、多毛の症状が現れたことから、発毛剤としての治験が開始されたのです。現在では代表的な薄毛治療薬として普及しており、男性向けにも女性向けにも薄毛治療に用いられています。
ミノキシジルには、内服薬と外用薬があります。外用薬はドラッグストアや薬局などの市販で購入することが可能です。日本皮膚科学会が2017年に定めた「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」で女性向けには1%濃度のミノキシジル外用薬が推奨されています。
内服薬は、一般的にはミノキシジルタブレット(ミノタブ)と呼ばれており、日本ではまだ十分な臨床試験が実施されておらず取り扱いが慎重です。その効果と危険性が十分に検証されていないという理由で、ガイドラインでは行うべきではないとされていますが、近年では専門医の診察の元に処方してもらえるクリニックも増えてきています。ハゲンワシ個人的にはより詳しい検証を待った方がいいのではないかと思います。
ミノキシジルの効果
ミノキシジルの内服薬・外用薬は、基本的には成分が同じのため、現れる効果に違いはほとんどありません。ただし、効果の現れ方や効き方は異なるため、医師の指示に従い正しく使用するようにしましょう。
血管を広げ血流をスムーズにする
ミノキシジルには、血管を拡張させる働きがあります。血管が広がることで、血流が良くなり、髪の毛に必要な栄養素や酸素を行き渡らせることができるのです。この作用によって、FAGAだけでなく、ほとんどの脱毛症に効果が期待できると考えられています。
発毛を促進する物質を作り出す
ミノキシジルには、発毛シグナルと呼ばれる物質を作り出す働きがあります。
・インスリン様成長因子1(IGF-1):細胞の成長や発達を促進
・血管内皮細胞増殖因子(VEGF):血管の新生を促進
ミノキシジルは、これらの物質が作られるのをサポートすると考えられており、その結果、毛母細胞が活性化され、育毛や発毛に効果が期待できます。
ヘアサイクルを改善する
ミノキシジルは、発毛の要となる毛母細胞が死滅(アポトーシス)するのを抑制します。乱れていたヘアサイクルが整うことで、抜け毛が減り、育毛や発毛が促進されるのです。
効果を感じるのは3ヶ月〜半年後
ミノキシジルは、使用後すぐに効果がみられる薬ではありません。早い方で3ヶ月ほど、一般的には半年程度経ってから、効果がみられることが多いです。治療を開始してから、なかなか効果を感じないからといって、自己判断で治療を中断するのは避けましょう。薄毛治療は、継続することが重要です。
広告ミノキシジルの内服薬と外用薬の違い
ミノキシジルの内服薬と外用薬は、基本的には同じ成分が使用されているため、効果に違いはほとんどありませんが、体内(血管)から成分が作用するか、体外(皮膚)から成分が作用するかによって、効果の現れ方には違いがあります。ミノキシジルの内服薬・外用薬の違いについてみていきましょう。
内服薬(タブレット)は効果が高い分副作用のリスクも高い
ミノキシジルの内服薬は、体内から成分を取り入れるため吸収率が高く、効果もその分高まると考えられています。ただし、高い効果が見込まれる分、副作用の生じるリスクも高まります。そのため、ミノキシジルの内服薬は、必ず医師の診察・処方の上で服用するようにしてください。
外用薬は厚生労働省に承認されており内服薬は未承認
ミノキシジルの外用薬は、厚生労働省に承認されており、市販でも購入ができます。それに対し、ミノキシジルの内服薬は、日本では承認されていません。ミノキシジルは、血管を拡張して血流を良くする働きがありますが、その分心臓に負担がかかってしまいます。心タンポナーデや狭心症などにつながる可能性があり、副作用のリスクが高いため、日本では承認されていないのです。しかし、ミノキシジルの内服薬が、FAGA治療に高い効果を期待できることも事実のため、医師の判断によって処方しているクリニックもあります。
ミノキシジルの副作用
【内服薬】
・動悸・息切れ・むくみ・体重の増加・頭痛・めまい・肝機能障害・初期脱毛・全身の体毛増加
ミノキシジルの内服薬には、上記のような副作用のリスクが挙げられます。心臓への負担が大きくなる可能性があるため、ミノキシジルの内服薬を使用する場合は、少量ずつ様子をみながら服用するようにしましょう。なお、ミノキシジルの内服薬は、厚生労働省に承認されていないため、日本語の添付文書はありません。
【外用薬】
・頭皮の発疹・発赤・かぶれ・かゆみ・ふけ・使用部位の熱感・頭痛・めまい・胸の痛み・心拍が速くなる・手足のむくみ・原因不明の急激な体重増加
ミノキシジルの外用薬には、上記のような副作用が挙げられます。頭皮に直接塗布するため、かぶれやかゆみなどが生じる場合があります。副作用の症状があまりにも長く続く場合やご不安な方は、医師にご相談ください。
ミノキシジルを使用できない人
・低血圧の方・高血圧の方・心臓疾患をお持ちの方・甲状腺機能障害をお持ちの方・高齢で持病があり通院している方・妊娠中や授乳中の方
上記に当てはまる方は、ミノキシジルを使用できない場合があるため、必ず医師にご相談ください。
初期脱毛について
ミノキシジルを使用してしばらくすると、抜け毛が増えることがあります。これを初期脱毛といいますが、古い髪の毛を新しい髪の毛が押し出し、ヘアサイクルが正常に戻る過程で起こる症状のため、過度なご心配は必要ありません。初期脱毛は、基本的には2週間程度で落ち着いていきます。
広告海外からの個人輸入は絶対NG!
輸入代行サイトなどを検索すると上記の薄毛対策内服薬を通販していることがあります。ミノキシジルを配合した内服薬ミノタブなどが多いと思います。これらは医師に相談しなくても購入できるため、「薄毛を誰かに相談するのは恥ずかしい……」と、考えている場合は頼りたくなるかもしれません。また価格が安く、ネットで手軽に購入できることもあり、気になっている方もいるのではないでしょうか?
しかし、海外から個人輸入するのは絶対にやめましょう。
悪質な業者だと注文した商品が届かなかったり、届いても配合されている成分が記載と異なっていたり、最悪の場合、不純物が混ざっていて思わぬ副作用を引き起こす危険性もあります。このような問題が起こっても、個人輸入の場合、それらは全て自己責任となってしまい補償が受けられません。ご自分の身体ですので健康第一を考えてください。
海外からの個人輸入はリスクが高いと言えます。本格的な薄毛治療を考えるなら、クリニックを受診したうえで処方薬を使用することをおすすめします。なぜクリニックの処方薬がよいかというと、「それぞれの原因や症状を見極めたうえで処方してもらえる」という点です。薄毛には人それぞれの理由があり、症状も異なります。そのため市販の医薬品や育毛剤を使用しても、自分の薄毛の原因と噛み合わなければ、思ったような効果は期待できません。薄毛の専門家が原因や症状を見極めて処方してくれる薬は、対処すべき原因により直接的にアプローチしやすいでしょう。